『半信半疑で読む 子育てアドバイス』<10後編>

第10回 言葉かけについて(言語環境)

 

言葉かけについて(言語環境)前編 につづく

B.言葉かけについて

(良い言葉環境は、親が子どもに与える最高・最良・最強のプレゼントです)

 

「かたづけないのは、悪い子だ」「かたづけないのは、悪い事だ」
「廊下は走るな」-「廊下は歩こうね」
「100点とれて、頭のいい子だ」―「100点とれるまでよく頑張った」

同じような内容の言葉が左右にならんでいます。
しかし、微妙なニュアンスの違いも容易に読み取ることが出来ます。わたしたち保育教諭は、出来るだけ右側のような言葉かけを子ども達にするように心がけています。
そして、このことは保育関係者以上に、お父さんやお母さんの課題としても意識していただくことをおすすめします。

「そんな細かいことまで気にせんでも・・・よかろうもん」

そのように言われる気持ちはよくわかります。特に体育会系のお父さん・お母さん方の口からはこのような不満の声が聞こえてきそうです。
実際、保育の世界に長くかかわっている私も、左側の言葉かけが、いまだについ口からでることもあります。
ですから、今回のテーマについて、私自身、偉そうに書く資格はないのかもしれませんが、読者の皆さんの幸せな子育てのヒントとしてお読みください。

「そんな細かいことまで気にせんでも・・・よかろうもん」

上記のご不満に対する答えは、

「いえ・・是非・・・気にしてください」です。

読みかじりのデータにすぎませんが、「気にせんでもよかろうもん」というお父さん・お母さん方に、少しショッキングなデータがありますので紹介します。

貧困の連鎖という事に関する資料としても使われている、シカゴ大学のシェーン・エバンスという方の報告があります。
経済的に裕福な家庭と貧困家庭の中で、どのような言葉かけが子ども達に対してなされているかを、実際に46家庭の日々の会話全てを4年間にわたり録音し、
その録音された言葉を一語一語拾い出し分析するという、途方もない根気のいる作業から導き出された報告です。

子どもに対する肯定的な言葉かけ、応援するような言葉かけ。
「いい子だね・よくできたね・そう、いいね、その通りだよ」等と「悪い子・〇〇しちゃだめだっていつも言ってるでしょ・ぐずぐずしないの・めそめそするな・ほらまた〇〇」
等の否定的な言葉かけ、禁止するような言葉かけがどれだけの回数、子どもにかけられたかの集計報告です。
それによりますと、子どもに対し、生後4年間の間に、肯定的・応援的言葉かけと否定的・禁止的な言葉かけの平均数が次のように出ています。

 肯定的・応援的言葉かけ否定的・禁止的言葉かけ
裕福な家庭の子ども(専門職)66万4000回10万4000回
貧困家庭の子ども(生活保護)10万4000回22万8000回

裕福な家庭の子ども(専門職家庭)は否定・禁止の言葉も聞かされていますが、その約6倍以上もの肯定・応援の言葉かけの中で成長していることがわかります。
これに対し、貧困家庭(生活保護家庭)の子どもは、裕福な家庭の子どもの約2倍以上の否定的な言葉かけを受けている。しかも、肯定的な言葉かけに関しては、
裕福な家庭の子どもに比べ6分の1もかけてもらっていないことになります。
なんとなく過ぎ去る一日一日単位で考えると、それ程気にするような事でもないように考えられがちです。
「そんな細かいことまで気にせんでもよかろうもん」と思われがちな事なのかもしれません。
しかし、生後4年間の積み重ねで集計すると、愕然とさせられる差だということではないでしょうか。
そして、その後も、年月が進むごとにそれぞれの数字はほぼ同じようなペースで積み上がり、両者の差は拡大していきます。
大人が作り出す言葉環境によって、子ども達にみえている世界は随分ちがって映っているはずです。

貧困の連鎖の問題と言いますと、貧しい家庭の子どもは、能力があっても高等教育を受ける機会が満足に与えられず、
希望する仕事に就くことが出来ないために、結果として貧困から抜け出せないと考えられがちです。
高等教育を受けることが出来るか出来ないかという事ばかりが問題視されています。
確かにそうした原因は否定できないと思います。しかし、ここで提示されている数字が示すものは、
学校教育以前に、貧困家庭の子どもは、家庭における言葉環境において、
明らかに成長が阻害されている可能性が高いという事を表しているといってよいでしょう。

 

「バカ・ダメな子・グズグズするな・めそめそするな・役立たず」このような言葉をシャワーのように日々浴びて育てば、たとえ本来ノーベル賞を取るような
知的素質がある子であっても成長が阻害されてしまいます。(近年、大人の怒鳴り声が乳幼児の脳を委縮させるという悲しむべき事実も明らかになっています)
自己肯定感・学習意欲・生活意欲・社会性・情緒の安定等、さまざまな面での成長が阻害されていることが考えられています。
小学校入学時点で、見た目ではわからない大変おおきなハンデが、心や脳に生じているともいえます。
わたしたち大人は、子どもが育つ言語環境ということをもっともっともっと真剣に考えてあげるべきなのです。
現代におけるマスメディア等の媒体から流れてくる言葉も情けない限りです。
お粗末なものばかりです。「バカとちゃうか!おまえあほか!生きてる意味あんの!ボーっと生きてんじゃねーよetc」

せめて家庭や保育施設での言葉環境は見直してあげたいものです。

 

 

第10回 言葉かけについて(言語環境)提案編 につづく